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患者一人ひとりの血液からオーダーメイドのiPS細胞(人工多能性幹細胞)を全自動で作る京都大iPS細胞研究財団(理事長=山中伸弥・京都大教授)のプロジェクトが4月、大阪市北区にある最先端医療の国際拠点「中之島クロス」で始動する。年内にも大学や企業に試験的に細胞の提供を始め、将来は年間1000人分の作製を目指す。
山中教授は2019年に「my iPSプロジェクト」を提唱。「みかん箱くらいの密閉された装置の中で、iPS細胞を全自動で作れるようにする」と構想を語った。その後、国内外の企業と研究を進め、装置がみかん箱より一回り大きい点を除けば、ほぼ実現可能な段階にきたという。
中之島クロスではドイツ製の自動培養装置を4台から14台に増やし、iPS細胞を安定して作製できるラインを構築する。日本製の装置の開発も進んでおり、1人分で5000万円かかるとされた製造コストを、100万円以下に抑える目標を掲げる。
再生医療に使うiPS細胞は、健康な人の血液から作って財団が備蓄する細胞が大半を占めている。山中教授らは、これまでに日本人の4割に適合する細胞をそろえたが、さらに増やすには珍しい型の細胞を持つ人を見つける必要があり、難しいという。今回のプロジェクトで患者本人から安くiPS細胞を作れるようになれば、理想的な形で補完できる。
財団の塚原正義・研究開発センター長はプロジェクトについて「患者の治療に使われなければ意味がない、という思いで進めてきた。医療現場に届けるまでやり遂げたい」と話している。
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全身の筋肉を動かせなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の患者の脳波などを測る電極シートを脳に貼り付け、意思を文字で表すシステムの治験を、大阪大発の新興企業「JiMED」が2025年10月にも申請することがわかった。機器を頭内に埋め込むタイプの治験は国内で初めて。28年頃の実用化を目指す。
「ブレーン・マシン・インターフェース(BMI)」などと呼ばれる技術で、埋め込み型のほか、頭の外側に取り付けるタイプがある。埋め込み型では実業家のイーロン・マスク氏が設立した米企業など2社が臨床試験を始めている。
システムは、ジーメドに所属する阪大の平田雅之特任教授(脳神経外科)らのチームが開発した。〈1〉送信機付きの薄型の電極シートを頭蓋骨と脳の表面の間に取り付け、脳波を測る〈2〉人工知能(AI)に学習させた脳波のデータを基に、患者が脳内で手を握るイメージをしたかどうかを解読装置が判別〈3〉解読装置に接続された機器の画面に文字が映し出される――仕組みだ。
機器の画面には、ひらがなが1文字ずつ切り替わりながら表示される。思っている文字が映し出された時に手を握るイメージをすると、脳波が決定ボタンの役割を果たし、その文字が入力される。その動作を繰り返し、文章にする。
治験では阪大病院など3施設で体がほぼ動かせない状態の患者11人に半年間使ってもらい、安全性と有効性を確かめる。
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慶応大などの研究グループは13日、目の難病「網膜色素変性症」で失明した患者の視覚を再生させる遺伝子治療薬の治験を開始し、1例目の投与を終了したと発表した。成功すれば、失明した患者の視覚を回復させる新しい治療法になる可能性がある。
網膜色素変性症は、網膜で光を感知する「視細胞」が働かなくなる遺伝性の病気で、進行すると失明する恐れがある。4000~8000人に1人が発症し、確立した治療法はない。
研究グループは、光センサーの役割を持つたんぱく質の遺伝子を独自に開発。眼球に注射し、網膜の細胞で光を感知する機能を回復させる治療を考案した。早ければ1か月ほどで効果が表れ、1回の注射で効果が続くことを見込んでいる。動物実験では光への反応が回復し、病気の進行を遅らせることを確認した。
1例目の治験は6日に慶大病院(東京)で実施し、患者の失明している片方の眼球に注射した。治験は6~15例実施し、経過を約半年間観察して安全性や有効性を確かめる計画だ。グループの栗原俊英・慶大准教授(眼科学)は、「日常生活が送れる程度の視覚の回復を目指し、数年以内に実用化したい」と話す。
岩手大の冨田浩史教授(視覚神経科学)の話 「光を感じるだけでなく、物が見えるなど日常生活で有用な視覚が得られるかが課題になるだろう」
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国立がん研究センターは13日、2012年にがんと診断された患者約39万人の10年生存率が54・0%だったと発表した。11年に診断された患者を対象とした前回調査より0・5ポイント上昇した。診断から一定年数生存している人の「サバイバー5年生存率」も初めて公表した。進行したがんでも、診断から1、2年を乗り越えれば、その後の生存率は上がる傾向がみられた。
全国のがん診療連携拠点病院などが参加する「院内がん登録」の大規模データを集計した。純粋にがんのみが死因となる場合を推定した「純生存率(ネット・サバイバル)」を算出した。部位別の10年生存率は、前立腺がんで84・0%、乳がん(女性)で82・5%、大腸がんで58・1%、胃がんで57・9%などだった。
また今回は、診断から5年後まで生存していた人を対象に、年を経るごとの5年後の生存率を示す「サバイバー5年生存率」を、がん以外の死因も含めて算出した。胃がんで最も病期が進んだ4期では、診断された年の5年生存率が5・5%だったが、診断1年後に生存していた人では、5年生存率が12・3%となった。さらに診断5年後に生存していた人の5年生存率は61・2%となるなど、多くのがんで診断から生存年数を重ねるにつれ、5年生存率が上昇する傾向がみられた。
同センター院内がん登録分析室の石井太祐研究員は「サバイバー5年生存率は、患者へ明るいメッセージになる」と話している。
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医師が不足する地域を対象に、厚生労働省が診療所の承継や開業の支援事業を始める。高齢医師の引退や後継者不足により、2040年には全国の自治体の2割で診療所が消滅するとの試算もある中、診療所の建物や設備の整備費、人件費を補助する。都市部に医師が集中する偏在解消の観点から、24年度の補正予算に102億円を盛り込んだ。
事業費は、厚労省と都道府県が出す。都道府県が、偏在対策を重点的に進める区域を指定し、全国の医師に重点区域内の診療所の承継や新規開業を募集する。
都道府県の呼びかけに応じた医師には、建物の改修、医療機器の更新に関する費用の一部を補助する。医師や看護師の人件費やマスク、アルコール消毒液など消耗品の購入費の一部も、区域内での診療が軌道に乗るまでの一定期間、補助の対象とする。
厚労省によると22年時点で、診療所がない市区町村は77にのぼる。今後、全国の診療所の医師が75歳で引退し、承継や市区町村内での開業がないと仮定した試算では、40年には4・4倍の342になる。全市区町村の2割に相当する。診療所が1か所のみの市区町村は175から249に増える見込みだ。
民間信用調査会社の帝国データバンクのまとめでは、24年に、診療所の休廃業・解散は587件で、比較可能な00年以降、過去最多を記録した。同社は、「増加している最大の要因は、経営する医師の高齢化」と分析している。
日本医師会総合政策研究機構の19年調査では、全国の診療所の半数が「現段階で後継者候補はいない」と回答した。山形県米沢市で田中クリニックを開業する田中雄二院長(68)も、体力の衰えに不安を感じ、後継者を探しているが難航している。1日60~80人が受診、外来の合間に訪問診療も担う。
同県は、医師の充足度を示す医師偏在指標でワースト8位となっている。田中院長は「近隣の開業医も高齢で、このままでは地域住民を診る医師がいなくなる恐れがある。経済的な支援で、後継者が見つかることを期待する」と話す。
厚労省は、重点区域で働く医師の手当の増額や、都市部で働く中堅・シニアの医師に、医師が不足する地域の医療機関を紹介する事業も始める。補助事業と合わせ、都
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2024年夏以降、「エコーウイルス11型」と呼ばれるウイルスに感染した赤ちゃん3人が亡くなったとの報告を受け、厚生労働省は実態を把握するため、全国調査に乗り出した。感染が疑われる乳児が入院した医療機関に報告を求める。
全国調査では、生後3か月以下の乳児が急性肝炎や敗血症、髄膜炎などで入院し、エコーウイルスの感染が疑われる事例について、医師に保健所へ届け出るよう要請した。保健所が感染経路を調べ、地方衛生研究所が検体を分析する。調査期間は26年3月までで、24年1月まで遡って報告することも可能とした。結果は公表する予定だ。
国立感染症研究所などによると、風邪の原因となるエコーウイルスは、感染しても多くは無症状だが、乳児でまれに重篤な疾患を発症することがある。
22年夏以降、欧州で死亡や重症例が相次いで報告され、国内でも、24年8~11月に、生後間もない赤ちゃん3人が急性肝不全などを発症して亡くなり、いずれもエコーウイルスが検出された。
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65歳以上が支払う介護保険料が全国最高の大阪市は2025年度、保険料抑制に本腰を入れる。介護や支援が必要となる高齢者を減らす「介護予防」の推進費として、新年度予算案に24年度の2・3倍となる4億9400万円を計上する。
同市では、24年4月からの3年間に65歳以上が支払う介護保険料が月額9249円と、全国平均(月額6225円)を大きく上回り、全国最高となった。市の介護保険事業会計の歳出額は23年度、3146億円に上り、14年度(2232億円)の1・4倍。保険料は当時(5897円)の1・5倍以上となっている。
保険料を抑制するには介護サービスによる歳出を抑える必要がある。市は昨年12月、高齢化が進む中で今後も保険料が上昇する可能性が高いとして、25年度から3年間、重点的に対策に取り組む方針を決定した。
市内の高齢者のうち独居世帯が20年に45%と、20年前から10ポイント以上増えたことに着目。独居の高齢者は外出を控える傾向があり、要介護や要支援となるリスクがあるため、外出や運動を促して体力維持を目指す。
新年度予算案には、▽外出時の歩数を電子マネーに交換できるポイントを付与(2億4000万円)▽関心のない高齢者への周知(4500万円)▽介護予防に取り組む事業者支援(1900万円)▽高齢者向けの筋力トレーニング教室(1500万円)――などを盛り込む予定。
介護保険は、国や自治体の負担金と40歳以上が納める保険料が財源。保険料は65歳以上と40~64歳の人口割合を踏まえ、3年ごとに改定される。
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厚生労働省は、脳死下の臓器提供の経験が豊富な25の拠点施設と、経験の浅い約70の医療機関をオンラインで結び、遠隔で脳死判定などを支援するシステムの配備に今年から着手した。経験が浅い医療機関は、患者家族への説明や脳死判定で対応に迷いがちだ。拠点施設の医師が状況を同時進行で確認しながら、こまめに助言することで、円滑に脳死判定を進め、臓器提供の増加につなげる狙いがある。関連経費5億2000万円を昨年12月に成立した今年度補正予算に計上した。
厚労省によると、国内で臓器提供が可能な約900の医療機関のうち、実際に提供経験があるのは3分の1の約300にとどまっている。医療機関によっては、家族への対応や脳死判定などのノウハウが十分でなく、臓器提供の実施に後ろ向きになりがちとされる。
こうした医療機関を支援するため、厚労省は、臓器提供を行う人員や経験が不足している約70の医療機関に、遠隔操作で最大70倍のズームが可能な高精細のカメラとスピーカーを搭載した機器を配備する。
支援を受ける医療機関に脳死の可能性がある患者がいる場合、連携する大学病院など地域の拠点施設の医師とオンラインでつなぎ、患者の様子や脳波のデータなどを即時に共有する。拠点施設の医師は、機器から送られてくる画像やデータを確認しながら、脳死判定から臓器摘出まで必要な手続きを助言し、支援を受ける医療機関が判断する。摘出した臓器が移植に適するかの評価にも活用する。
臓器提供は、患者の脳全体の機能が失われ、回復する可能性がない脳死と判断された場合、医療機関が終末期医療の一つの選択肢として患者家族に提示し、同意を得られた際に行われる。
医療機関による家族への対応では、「患者に回復の見込みがないことに家族の理解が得られているか」や、「家族に臓器提供を積極的に勧めない」などの注意点がある。臓器移植法に基づく法的脳死判定の手順は厳格に定められており、深い昏睡状態にある、瞳孔の拡大・固定が見られるなどの項目を医師が2回確認する必要がある。
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従来の治療で効果が見込めない再発した子宮頸がん患者12人を対象に、iPS細胞(人工多能性幹細胞)と遺伝子操作技術を組み合わせた新しいがん免疫療法の治験を、順天堂大と東京科学大の研究チームが開始した。
安藤美樹・順天堂大教授(血液内科)らのチームは、まず健康な人から免疫細胞「キラーT細胞」を採取し、iPS細胞を作製する。拒絶反応が起きないようゲノム編集技術で遺伝子を改変し、再びキラーT細胞に変化させる。こうして作った大量のキラーT細胞を患者に投与してがん細胞を死滅させるのが狙いだ。治験は順天堂医院(東京)で2028年末まで行う計画で、主に安全性を検証する。
子宮頸がんは、国内で年間約3000人の女性が死亡している。進行したり再発したりすると、手術や放射線療法など従来の治療が効きにくくなる。キラーT細胞は患者の体内で数が少なく、再発・難治性のがんを治すには不十分だという。
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徳島大歯学部から生まれた徳島市のベンチャー企業「amidex(アミデックス)」が、デジタル技術を駆使した精巧な型枠を使うことで、虫歯治療や矯正などで歯科医院に「削らない治療」をしてもらうサービスを提供している。「未来歯科治療」と名付け、全国で導入が広がっている。(吉田誠一)
従来の虫歯治療では、周囲の健康な歯の部分まで大きく削って型を取り、銀歯やセラミックをはめるのが中心。接着に使うセメント部分は再び虫歯になりやすく、再治療を受けるケースも多い。
近年は詰め物に使うコンポジットレジン(CR)というセラミックとプラスチックの混合素材の開発が進み、それを固めるペン形のLED光照射器の進化もあり、治療の幅が広がった。小さな虫歯を詰めるだけだったCR治療が歯の形を整えたり、再構築したりする治療へと発展してきている。
白いペースト状のCRを注射器形の注入器で歯に塗り、光を当てて固める。直接歯に接着させるため、健康な歯を削ったり、型取りして作った詰め物を削って修正したりする手間が不要になる。一方で、治療範囲が広くなれば、美しく仕上げるのに歯科医の高い技術が必要で、治療時間が長い難点もある。
同社は国産CRとデジタル技術の進化を背景に、歯科医院で簡単に美しくCR治療を仕上げてもらおうと、「未来歯科治療」として社名と同じ新サービス「アミデックス」を始めた。
各地の歯科医が患者の口腔内をスキャナーで読み取り、データを同社に送信。同社の専門医、歯科技工士らのチームが患者に合わせた歯の型をパソコンで設計し、3Dプリンターで透明な樹脂製の型枠(特許出願中)を作る仕組み。
各歯科医院では、送られてきた透明な型枠を患者の歯に添え、歯の色に合わせたCRを注入。LED光で固めれば、短時間で周囲の歯と見分けがつかないように仕上がる。病気やけがで歯が複数本なくなったり、欠けたりした歯でも、アミデックスで隣の歯にCRを直接接着させて新たな歯を作ることも可能だ。
昨年4月からアミデックスを解説するセミナーを開催、オンライン配信もして、受講した歯科医にサービスを提供。全国で130以上の歯科医院が導入し、利用が広がっている。